父からのメール [感動する話]
ビールは横に冷やすとうまい、
と父は言っていた。
そんなわけはないと言っても聞かず、
冷蔵庫に決まってビールを横にして冷やしていた。
酒以外煙草もギャンブルもやらない親父にとって、
ビールに関してだけはこだわりを持っていたのかもしれない。
酒が飲めなかった俺は、一緒に飲むこともなかった。
親父が死んだ時、なぜかそんなに悲しくなかった。
あっけないな、とは思ったが、
何か時間が寸断されるような感覚はなかった。
親戚が自宅にきて、これからのことを話し合っているときに、
ふと何か酒が飲みたくなり、冷蔵庫を開けた。
横になったビールがあった。
時間がぎゅっと凝縮されて
思い出すべきことが多すぎて泣いた。
去年3月に定年を迎えた父に
兄と私で携帯電話をプレゼント。
退職前は携帯などいらんと言っていたが
うれしそうだった。
使い方に悪戦苦闘の父に一通り教えて
まずメールを送ったが返事はこなかった。
その6月に脳出血で孫の顔も見ずに突然の死。
40年働き続けてホッとしたのはたったの2ヶ月。
葬式後、父の携帯に未送信のこのメールを発見した。
最初で最期の私宛のメール。
私は泣きながら送信ボタンを押した。
「お前からのメールがやっと見られた。
返事に何日もかかっている。
お父さんは4月からは毎日が日曜日だ。
孫が生まれたら毎日子守してやる。」
私の一生の保護メールです。
動画版はこちら